はじめてのユーザーインタビュー:ユーザーの本音を引き出す質問設計と実践ガイド
デザインリサーチの第一歩として、ユーザーの声に耳を傾けるユーザーインタビューは非常に重要な手法です。しかし、どのように進めれば良いか、どのような質問をすれば本音を引き出せるのか、迷うこともあるかもしれません。
この解説では、ユーザーインタビューの基本的な考え方から、実践で役立つ質問設計のコツ、そしてインタビューの進め方までを体系的にご紹介します。
ユーザーインタビューとは:なぜ行うのか
ユーザーインタビューとは、製品やサービスのユーザーや潜在顧客と直接対話し、彼らの経験、ニーズ、課題、行動、感情などを深く理解することを目的とした定性調査手法です。
UI/UXデザインにおいてユーザーインタビューが不可欠な理由はいくつかあります。
- ユーザーの課題とニーズの深掘り: アンケートなどの定量調査では見えにくい、ユーザーが抱える潜在的な課題や感情、行動の背景にある「なぜ」を深く掘り下げることができます。
- 仮説の検証と新たな発見: デザインの初期段階で立てた仮説が本当に正しいのかを検証したり、予期せぬユーザーインサイト(洞察)を発見したりする機会を提供します。
- 共感の醸成: ユーザーと直接対話することで、デザイナー自身がユーザーの視点に立ち、共感する力を養うことができます。これは、ユーザー中心のデザインを進める上で非常に重要です。
ユーザーインタビューの準備:成功を左右する3つのステップ
効果的なユーザーインタビューを行うためには、事前の準備が鍵となります。特に以下の3つのステップを丁寧に進めることが重要です。
1. インタビューの目的を明確にする
「何を知りたいのか」を明確にすることが、インタビュー成功の第一歩です。漠然と「ユーザーについて知りたい」と考えるのではなく、プロジェクトの現状や課題に基づいて、具体的な問いを設定します。
例: * 新規機能Aに対するユーザーの期待と懸念は何か? * 既存機能Bの利用におけるユーザーの不満点は何か? * ユーザーが目的を達成するまでの具体的な行動フローはどのようなものか?
この目的が明確であればあるほど、質問内容が具体的になり、インタビューの方向性が定まります。
2. インタビュー対象者を選定する
誰に話を聞くかは、得られる情報の質に直結します。インタビューの目的に合致したターゲットユーザー、または潜在ユーザーを選定することが重要です。
例えば、特定の機能に関するインタビューであれば、その機能を利用しているユーザーや、利用を検討しているユーザーが適切でしょう。可能であれば、サービスの使用頻度や習熟度が異なる複数のタイプのユーザーに話を聞くことで、より多角的な視点が得られます。
また、ペルソナを設定している場合は、そのペルソナに合致する人物像のユーザーを探索する視点も有効です。ペルソナとは、製品やサービスの典型的なユーザー像を具体的に設定した架空の人物像のことです。
3. インタビューガイド(質問項目)を作成する
インタビューガイドは、質問の羅列ではなく、対話の流れをスムーズにするための「台本」のようなものです。目的を達成するためにどのような情報を引き出すべきか、あらかじめ質問項目をリストアップしておきます。
質問設計のポイント:
- オープンな質問を心がける: 「はい」「いいえ」で答えられるクローズドな質問ではなく、ユーザーが自由に語れるオープンな質問を多く取り入れます。
- 良い例: 「この機能を使う時、どのような状況で、どのように感じましたか?」
- 悪い例: 「この機能は便利でしたか?」
- 「なぜ」「どのように」を深掘りする: ユーザーの回答に対して、「なぜそう感じたのですか?」「具体的にどのように行いましたか?」など、さらに掘り下げる質問を準備しておきます。
- 行動、思考、感情に焦点を当てる: 「〜しましたか?」という行動に関する質問だけでなく、「その時、どう考えましたか?」「どのような気持ちでしたか?」という思考や感情に踏み込む質問も重要です。
- 経験談を促す: 抽象的な意見よりも、具体的な経験談やエピソードから深いインサイトが得られることが多いです。「最近あった出来事で、〜の機能を使った時のことを教えていただけますか?」のように具体的な状況設定を促します。
- インタビューガイドの構成例:
- 導入: 自己紹介、インタビューの目的と時間の説明、データ利用に関する同意確認
- ウォーミングアップ: ユーザーの日常や一般的なサービス利用状況に関する簡単な質問
- 本題: 設定した目的に沿った具体的な質問(行動、思考、感情の深掘り)
- まとめ: 他に伝えたいことの確認、感謝
ユーザーインタビューの実践:本音を引き出すコツ
準備が整ったら、いよいよインタビューの実施です。対話の中でユーザーの本音を引き出すための実践的なコツをご紹介します。
1. アイスブレイクで緊張をほぐす
インタビュー開始直後は、ユーザーが緊張していることが多いです。簡単な雑談や、天気の話などで緊張をほぐし、リラックスできる雰囲気を作ることが大切です。インタビューの目的を改めて伝え、安心して話してもらえるように促しましょう。
2. 傾聴と共感を心がける
ユーザーが話している間は、途中で遮らずに注意深く耳を傾ける「傾聴」が重要です。ユーザーの言葉だけでなく、表情や声のトーン、しぐさからも情報を読み取ろうと努めます。 「なるほど」「そうなんですね」といった相槌や、相手の言葉を繰り返す「オウム返し」は、ユーザーが話しやすいと感じる効果的な相槌です。共感を示すことで、より深い話を引き出すことができます。
3. 深掘りと沈黙の活用
ユーザーの回答に対しては、「なぜそう思ったのですか?」「他に何かありますか?」といった深掘りの質問を適切に挟みます。すぐに次の質問に移らず、ユーザーが考えをまとめるための「沈黙」も大切にしましょう。沈黙は、ユーザーがさらに深い洞察を語り始めるきっかけになることがあります。
4. 誘導尋問や限定的な質問を避ける
「この機能は便利ですよね?」といった、特定の答えを期待するような誘導尋問は避けるべきです。また、「はい」「いいえ」でしか答えられない限定的な質問も、深い情報が得られにくいため避けます。常にオープンな質問を意識し、ユーザーが自由に語れる環境を作りましょう。
5. 記録を効果的に行う
インタビュー中の記録は、後から情報を整理・分析するために不可欠です。 * メモ: 話の要点や印象的な言葉をメモします。 * 録音: ユーザーの許可を得て録音することは、後から正確な情報を振り返る上で非常に有効です。ただし、録音のみに集中しすぎず、ユーザーとの対話に集中することが最優先です。 * 共同での記録: 可能であれば、インタビュアーとは別に書記役を設けることで、より詳細な記録を残すことができます。
インタビュー後の対応:知見の活用へ
インタビューが終わった後も、大切な作業が残っています。
1. データの整理と共有
インタビューで得られた情報は、生の声として非常に価値があります。録音データを文字起こししたり、メモを整理したりして、誰もがアクセスできる形で情報をまとめます。 複数のインタビューから得られた情報を整理し、共通のテーマやパターンを見つけるためには、アフィニティ図の作成が有効な手法の一つです。アフィニティ図は、バラバラな情報をグルーピングし、構造化することで、潜在的な課題やニーズを浮き彫りにします。
2. 得られた知見をデザインに活かす
インタビューで得られたインサイトは、デザインの方向性を決定したり、既存の課題を解決したりするための重要な示唆となります。発見した課題やニーズに基づき、改善策や新機能のアイデアを具体的に検討し、次のデザインプロセスへと繋げていきましょう。
まとめ:ユーザーインタビューでユーザー中心のデザインへ
ユーザーインタビューは、一見するとシンプルな対話ですが、ユーザーの本質的なニーズや課題を深く理解するための強力なツールです。事前の丁寧な準備、実践における傾聴と深掘りの姿勢、そして得られた知見を活かすための整理が、成功の鍵を握ります。
「ユーザーが本当に求めているものは何か?」「なぜそう考えているのか?」といった問いに対する答えは、ユーザーとの対話の中に隠されています。ぜひ、本稿でご紹介したポイントを参考に、ユーザーインタビューを実践し、ユーザー中心のデザインへと一歩踏み出してみてください。