はじめてのデザインリサーチ

デザインリサーチ後の情報の迷子を防ぐ!アフィニティ図でユーザー理解を深めるステップ

Tags: デザインリサーチ, 定性調査, 分析手法, アフィニティ図, UXデザイン

はじめに:集めた「声」をどう活かすか

デザインリサーチに取り組んだ際、ユーザーインタビューや観察などで多くの情報、特に「ユーザーの声」や「行動の断片」といった定性情報が集まります。これらの情報は、ユーザーの本音や潜在的なニーズを知る上で非常に価値のあるものですが、集めただけではその全体像や重要な示唆(インサイト)が見えてこないことも少なくありません。

集まった大量の定性情報を効果的に整理・分析し、デザインの次のステップへとつなげるためには、適切な手法を用いることが重要です。この記事では、デザインリサーチ初心者の方に向けて、定性情報を構造的に整理・分析するための基本的な手法の一つである「アフィニティ図」について、その目的、作り方、そして実践のポイントを分かりやすく解説します。アフィニティ図を活用することで、集めたユーザーの声を単なる情報の羅列から、意味のある洞察へと昇華させることができるようになります。

デザインリサーチにおける「定性情報」とは

デザインリサーチで扱う情報には、大きく分けて「定性情報」と「定量情報」があります。

アフィニティ図は、この定性情報を扱うための強力なツールです。ユーザーインタビューの議事録、観察フィールドノート、自由記述式のアンケート回答など、言葉や文章で得られた情報を対象とします。

なぜ定性情報の整理・分析が必要なのか?

定性情報は非常に豊かで示唆に富みますが、そのままでは全体像を掴みにくく、解釈が属人的になりがちです。これを整理・分析する必要があるのは、主に以下の理由からです。

  1. パターンや傾向の発見: 個々のユーザーの発言や行動は断片的ですが、複数の情報を見比べることで、共通する課題、ニーズ、行動パターンなどが見えてきます。
  2. 重要なインサイトの抽出: パターンの中から、デザインによって解決すべき本質的な課題や、新しい機会につながるような深い洞察(インサイト)を見つけ出すことができます。
  3. チームでの共通理解: 集めた情報を構造化し、可視化することで、リサーチを行った担当者だけでなく、チーム全体でユーザー理解を共有し、議論の土台とすることができます。
  4. 次のアクションへの接続: 明確になった課題やインサイトに基づいて、ユーザーペルソナの作成、カスタマージャーニーマップの改良、解決策のアイデア発想など、具体的なデザインアクションへとスムーズにつなげることが可能になります。

アフィニティ図(KJ法)とは?

アフィニティ図(Affinity Diagram)は、KJ法(文化人類学者の川喜田二郎氏によって考案された手法)の一部として知られる、KJ法のA型図解に相当する手法です。大量の断片的な定性情報をカード化し、それらを類似性や関連性に基づいてグループ化することで、情報の構造を明らかにし、隠れたパターンや重要な論点を見つけ出すことを目的とします。

特徴としては、個人がバラバラに収集した情報を持ち寄り、集団で作業を行うことで、多様な視点を取り入れながら合意形成を図りやすい点が挙げられます。

アフィニティ図の作成ステップ

ここでは、一般的なアフィニティ図の作成ステップをご紹介します。チームで協力して行うことを想定しています。

ステップ1:準備(収集した情報のカード化)

リサーチで得られた生の情報(インタビューでのユーザーの発言、観察で気づいたことなど)を、1つの情報につき1枚のカード(付箋など)に具体的に書き出します。

ステップ2:グルーピング(類似情報の集約)

書き出したカードを、広い壁や机にランダムに貼り出します。参加者全員で、言葉を発さずに(サイレントで)カードを読み込み、類似していると思われるカードや関連性の高いカードを物理的に近くに移動させて、グループを作っていきます。

ステップ3:見出しの作成(グループの要約)

できたグループに、そのグループ全体の内容を最もよく表すような見出しカードをつけます。最初は仮の見出しでも構いません。見出しは、グループ内のカードをすべて包含するような、抽象度を少し上げた表現にします。

ステップ4:構造化(グループ間の関係性、階層化)

作成したグループとその見出しを眺め、グループ間の関連性や階層構造を考えます。例えば、「特定の課題」に関するグループが複数あり、それらが「より大きな問題」の下位要素である、といった関係性が見つかるかもしれません。関連性の強いグループを物理的に近くに配置したり、より大きなまとまりを作るために上位の見出しをつけたりします。

ステep5:インサイトの抽出(気づきや示唆の発見)

整理・構造化されたアフィニティ図全体を俯瞰し、ユーザーの行動や思考、隠れたニーズに関する重要な気づきや示唆(インサイト)を抽出します。これは、単に情報をまとめただけでは見えなかった、デザインの方向性を決定づけるような発見であることが多いです。

アフィニティ図作成のポイントと注意点

アフィニティ図を効果的に作成するための実践的なポイントをいくつかご紹介します。

アフィニティ図を次のステップに活かす

作成したアフィニティ図とそこから得られたインサイトは、それ自体がゴールではありません。これを活用して、初めてデザインリサーチが価値を発揮します。

まとめ

デザインリサーチで収集した定性情報は、ユーザー理解のための宝庫です。しかし、その価値を最大限に引き出すためには、適切な整理・分析が不可欠です。アフィニティ図は、大量の定性情報を構造化し、パターンやインサイトを見つけ出すための強力で実践的な手法です。

記事で紹介したステップとポイントを参考に、ぜひ実際にアフィニティ図を作成してみてください。最初は戸惑うこともあるかもしれませんが、繰り返し実践することで、ユーザーの声の裏に隠された真実を読み解く力が養われ、より根拠に基づいたデザイン判断ができるようになるはずです。

アフィニティ図はあくまで数ある分析手法の一つです。経験を積む中で、目的に応じて様々な手法を使い分けられるようになると、デザインリサーチの幅はさらに広がります。この記事が、デザインリサーチの次のステップである「分析」への第一歩となれば幸いです。